さんの、心もちを寂しく思いやった。
こうして、飯尾さんがおきえさんに接近していくにつれておきえさんは紀久子からだんだん遠のいていくように思われる。この感じから、自分の眼のとどかないところでひそひそ話をしている二人を想像しては妙に神経をいら立たせて監視するような眼つきで二人をみている自分に気付くことがあった。
いつか、紀久子が外から戻ると、いつも茶の間に坐りこんでいる飯尾さんの姿はなく、福にきくと蔵の中だというので行ってみると、おきえさんと二人で長持ちの中の片付けものをしているのだった。わざわざ自分の留守を狙ってそんなことをしなくとも、と思ったので少々苦い顔をしてみせると、おきえさんは申訳なさそうに、
「わたしの荷物を少し入れさせて頂こうと思いまして」と頼むようにちょっと会釈した。蔵の鍵は飯尾さんにまかせてあるとはいえ、何かの用で蔵へ入る時はいつも家のものが一緒であった。それが母のいた頃からの慣しだったのである。それを飯尾さんが勝手に鍵を使っている。いい気になって増長しているようで、かなわない気がする。飯尾さんとすれば、おきえさんは家の人なのだからその人のお供で蔵へ入るのは何んとも思
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