迫る程金に執着していく飯尾さんの気もちが紀久子には分らぬではなかったが、それへ同情する心の動いてこないのをどうしようもなく思うのである。それで、今もおきえさんから小遣いを貰ったといって自分へみせにきた飯尾さんを前にしても、紀久子は単純な心でそれを悦んではやれず、そのみせびらかすような素振りさえ一種の自分への示威のように思われてくるのである。
「紀久ちゃんにはおきえさんの気心が分らないはずがないのに、あんまり劬りがなさすぎますよ」
いつぞや、姉はこう窘《たしな》めるように紀久子へ云ったことがあった。何んでも、おきえさんが紀久子へ手土産にした品を、「子供だましだ」とか、「田舎くさい柄あいだ」とか云って事々に紀久子がけなしていたというのをおきえさんが耳にして、そんなにお気を悪くしていらしたとも知らず、ただ紀久子さんに悦んで頂きたい一心で自分はそれをしていた、と涙ぐんで姉に話したというのであった。それが飯尾さんから洩れていったものだとは分っていたが、姉へわざわざ自分の気もちを説明する程のこともあるまい、と紀久子は黙っていた。そして、この頃、外へ出ても前のように手土産を持ち皈らなくなったおきえ
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