せてしまったろう……。
「工場が忙しいのかい?」
「うん……兼《かね》坊はどうしたい。どこへ行ったんだい?」
「先生のお部屋だろう」
「役者のとこか。おっ母ア、気をつけなくちゃいけねえぜ。兼も十七だからなア――」
「役者って、お前、誰れのことを云うの」
「解ってらア、此処《ここ》の教会《てら》の狐野郎のことよ。祭壇の上で芝居をやる役者だろうじゃねえか。そだろう。おっ母ア」
「ま、何を云うの……」
お松の唇が細かく慄《ふる》えた。眼が注意深く周囲《あたり》を見廻した。
「お前は、お前は、悪霊に憑《つ》かれているんだ。サタンがお前に云わせるんだね。ね、そうだろう。欽や、早く神様にお赦しを乞いなさい。おお神様、私の愚かな小羊をお赦し下さいませ。貴方のみ力によってこの小さきものから悪霊をお取り払い下さいまし……」
「止めなよ。おっ母ア、狐に向って祈ったところで始まらねえ。狐にア油揚が一番利くのさ、神様なんてありアしねえ。坊主なんて手品師にきまってらア」
「しッ……聞えるよ。お前はまア何ということを。忘れたのかい、神様はお前のお父さんだよ。お前はよもやあの御恩を忘れたのじゃないだろうにね。さ、
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