祈りなさい。救いを求めなさい。詫びて、元のようにみ力におすがり申すんだよ……」
「手品を見ている連中は騙されている内は熱心なんだ。だが、一旦手品の種を掴んだものにア、馬鹿馬鹿しくて奴等のやる事が見ちゃいられねえ。奴等が後へ廻してる手に何を握ってるか調べて見るがいいや。カラクリが判《は》っ切《き》り分らア。全くよ。俺ア、遂《つい》此間《こないだ》迄信者様だった。騙されたのも知らねえで悦んで奴等の手品に見とれていたからなア。だがなおっ母ア、俺ア奴の尻尾を取っ掴えてしまったぜ、組合さ這入《はい》る迄は俺も狐の仲間さ。だけんど、俺ア脳味噌が変ったぜ、世の中の事が表からよりも裏から見れるんだ。判っ切り解らア。そうだ。おっ母ア、お前も眼を開けて、一つ神様の尻尾を掴んでみな。裏から覗いてみな。俺アおっ母アの眼を開けねえじゃおかないからな。……大体手品師と一緒に暮らしてるのが間違ってるよ」
 一語一語を叩くように述べる欽二を、お松は只|呆然《ぼうぜん》と胸に十字を切った儘聞いていた。
「アーメン、アーメン……」
 廊下を、白痴の娘が叫んでいる。
「兼来う。何だお前白粉なんざ塗るんじゃねえよ。アーメンと
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