に人々は長い礼拝をして席を立った。
「左様なら牧師様」
「左様なら小母《おば》さん」
信者達は静粛に、熱意をもって若い牧師に別れを述べ、牧師の背後に並んでいる痩せた老母に向って会釈した。
「ほんとに今日の御話は結構でございました。みなさんも大変熱心に聞いてましたよ」
人々の去った後、「小母さん」と呼ばれた老母は、窓々のカーテンを引き乍ら牧師を振り返って微笑した。
「……隣りはうるさいんだね。どうしたんだろう。バタバタやって気がひけたよ……」
牧師は寛衣を脱ぎ終って、小さい鏡に向って髪を撫でつけていた。
「亭主がね、何でも失業しているそうで。まことに当節は不景気でございますからね」
「いくら食うに困るからって、少しはこっちの手前も考えてくれるといいんだよ。あれじゃ信者達に対してみっともないねえ……」
牧師は、先刻の皺を、再び眉間へ深く刻んだ。
2
十三年前だった。
その当時、夫に死別したお松は、三人の子供を抱えて生活の最低下線上に立っていた。食わない日が幾日も続いた。夜になると、死が誘惑の手を拡げてお松親子を迎いにやってきた。死ぬ機会を見付ける事だけが問題だ
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