たサタンなのです。クリスチャンは神様の御名によって、このサタンと最後迄闘い通さねばなりません。社会からこれを追い払わねばなりません。神様の御言葉に対してあく迄忠実でなければなりません。擢れをもたぬ自由な生活を……」
「畜生! どこで飲んできやがったんだ。やっと金を掴めやア チェッ、茄《ゆ》で蛸《だこ》になって帰ってきやがる……」
「当り前よ。俺アの取った銭は俺アの勝手じゃねえか。二六時中ゲジゲジ野郎の相手がでけるけえ、ヘン 酔ぱらわなきゃ 俺アにはこの世の中が暮していけねえよ……」
「……ま、一辺云ってみな、野郎……」
ガチャン バタン ガラ ガラ ガラ……
祭壇の壁一重隣りでは乱闘が始まった。
居眠っていた信者の一人は、慌てすぎて椅子から滑り落ちた。
「……で、ありますから、みなさアんも、この神様の御言葉をよおく味わって下さるようにお願いいたす次第であります……」
汗を拭き、咳払いをし、牧師はひそめた眉を忙《せわ》しく伸縮させた。
「献金!」
前列にいた毬栗《いがぐり》頭が皆の方を向いて野太い声を張りあげた。
赤い袋の中で銀貨がカチカチ音を立てた。
再び聖歌、祈り、最後
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