、奴等がだらしなく下げている尻尾を掴んだ時、その時だ。おっ母アの眼が開くなア、奴等を注意してみるんだ。な。尻尾を握るんだ。……今日は帰れよ。俺アとても忙しいんだ。おっ母アの坊主臭え香いを洗い落してからやってきなよ」
 欽二は、母親の小さい肩を手で軽く叩いた。
「体を丈夫にしなよ」
 お松は変に泪《なみだ》っぽくなり乍ら、後をも見ずに歩き出していた。
 ワアッ 塀の中では喚声がかち合っていた。

       6

 この一週間以来、げっそり瘠せて碌に飯も食わないでゴロゴロしていた白痴の娘は、とうとう床についたその夜、激しい腹痛を泣き喚き乍ら母親に訴えた。真夜中になって、彼女は黒っぽい液体を何回も吐いた。便所へ行く度にひどい出血をした。悲痛な声を放って救いを求めた。お松は、娘を抱え、起し、寝かしつけ、彼女自身血まみれになって介抱した。
 この騒ぎに、隣室の牧師は起き出してこようともしない。だが、お松は寧ろ彼の存在を忘れて夢中になっていた。
 眼を擦《こす》り擦りやっと医者がやってきた。
 帰りぎわに、彼は難かしい皺の中から囁いていった。
「僕《わし》は専門じゃないから判っ切り云えんがな、
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