はげわし》のような男が訪ねてきて、欽二の行動について、お松の知ってる限りを鑿《のみ》のような舌の先きでほじくっていった。
男が帰った後で、蔭で立ち聞きしていたらしい牧師は、眉間へ露骨な縦皺を寄せて、お松を白く睨んだ。
「欽二君もとんだいい所とかかり合いを持ってるね。あれでも模範職工かね。ところで、ああいう男が教会へ出入りしたとなると、信者間でも問題が起る。引いては教会の名誉にもかかわる至極迷惑な話だ。お松さん、これは何とかして貰わなければ……とかく、白い壁に付く泥は目立ち易いからねえ――」
厭な言葉がピシャピシャお松の頬を叩いた。
――欽二に限って間違いのあろう筈がないが。だが、この間来た時の口のききようじや、万一そんな事でもあったら……
併し、お松にとっては、この際息子に対する危惧の念よりも、牧師の何時もと違う不当な態度が何よりも肚にこたえた。
あの夜以来の落ちつかない彼の行動、自分達親子を不快視するその瞳、穏和そのものだった神様が、急激に粗暴になったこの変化を、お松はそこへ触れ度くないような気味のわるい原因と結びつけて、極力それを否定してはいても、時折り不意な恐怖がやって
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