ひとつ点っていた。
「若夫婦世の無情を恨んで……なんだと、県下でまた心中があったとよ……」
親方は煙管を置いて、新聞の上に肉づきの好い手をあてがって、声を出して読みはじめた。
畳屋が乗り出した。
「心中ていえあ、俺んとこみてえに女蛙《おなごびっき》ばかり殖えちゃあ……なあ、親方、それこそ親子心中でもしなけあならねえして」
「あぶらやさ下女《めらし》にやったら? この頃あ、手不足で、下女探してるって話しだよ」
「あぶらやも竈大きくしたもんだな。この節あ、県下の工場さ迄貸し付けてるって評判だぜ」
将棋の手を休めずに、指物屋が口を挟んだ。
「三浦の家の山なあ、みんな買い取ったって、役場の時さんが言ってたよ」
「そうでねえ。登記所の鈴木さんな、ゆうべ髪刈りにきて言ってたが、裏山の方半分だとよ。それも買ったでなく、貸金の抵当だとよ」
「金持ちにあ金こ[#「こ」に傍点]貯まるばかしでな。貯まれば貯まる程きたなくなるってな。あぶらやのお父《ど》さんもお父さんだが、お母《が》さんの締まることったら、鶏さやる餌をな、市日の終《しま》ったあとさ籠こ[#「こ」に傍点]持たせて拾わせにやるってさあ」
「
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