それで税金の方は誤魔化そうとしているし、町会さ当選した時だって、酒こ[#「こ」に傍点]二升しか買わねえってな。あそこのお母さん、漬物《がっこ》もってきたきりで『これで飲んでたんえ』って言ったとさ。『もう、こりごりだ』って、便利屋の爺ちゃ[#「ちゃ」に傍点]言ってたぜ」
「便利屋か。何んと、あれだば一斗あずけたって『もう、こりごりだ』べしちえ」
みんな一様に笑った。
「何んと、賑かだこと」
戸籍係りの飯塚時二郎が硝子戸を鳴らして入ってきた。鏡に顔を寄せて、顰めたり口を引き伸ばしたりして見ていたが、
「年とったせいか、皺がふえたなあ」
と独り言を言った。
「髭こ[#「こ」に傍点]あたるしか」
親方が立ち上った。
「この顔なら、あたってもあたらなくても同じだからなあ。まあ、一服さしてくれや」
「お前《めえ》みてえな色男が今からそんなこと言ってるこったら、親方あ店じまいだよ。なあ」
畳屋が抗議した。
「それに、お高さんは出てきたしな」
指物屋が付け足した。
「何、お高さんがどうしたって」
時二郎は鋭く決めつけた。「な、あんまり、冷やかすもんでねえ。お高さんは収入役の出戻り娘なきり
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