凍雲
矢田津世子
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【テキスト中に現れる記号について】
《》:ルビ
(例)一日市《ひといち》
|:ルビの付く文字列の始まりを特定する記号
(例)少時|白《しら》けた
[#]:入力者注 主に外字の説明や、傍点の位置の指定
(例)ぼっち[#「ぼっち」に傍点]
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秋田市から北の方へ、ものの一時間も汽車に揺られてゆくと、一日市《ひといち》という小駅がある。ここから軌道がわかれていて、五城目という町にいたる。小さな町である。封建時代の殻の中に、まだ居眠りをつづけているような、どこやら安閑とした町である。現に、一日市で通っている駅名も、元々、この町の名で呼び慣らされていたものだったけれども、いつのまにか奪取《とら》れてしまっていた。居眠りをしていたせいである。居眠りをしながら、この町は、老い萎えてゆくようにみえる。
町の人たちの中には、軌道を利用するひとが尠い。結構足で間にあうところへ、わざわざ、金をかけることの莫迦らしさを知っていたから、大ていは、軌道に沿うた往還を歩いて行きかえりした。
軌道の通じない頃は、この往還を幌馬車が通っていたし、雪が積りはじめると、これが箱橇に
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