代えられた。町の人たちにとっては、そのころのほうが、暮しよかった。文明というものは、金のかかるものだと、こぼしあった。
 この往還の途中に、七曲りというところがある。年を経た松の巨木が目じるしになっていて、この辺は、徒歩のひとには誂えむきの休み所と見えるけれども、町の人たちは滅多に立ち寄るということがない。此処で休んでいるのは、ひと目で在郷者とさえ分るくらいであった。
 よく、この松の木に馬をつないで、一ぷくつけている馬方を見かけることがある。そんな時の、町の人たちの顔には、一種よそよそしいような、蔑むような、優越感を匂わせたような、複雑な表情が掠める。
 松の木は節くれだって、経てきた旧い年々の風雪を染みこませて、昔ながらに七曲りの辻に立っている。
 十一月に入って、ちらほら降り出す雪が積りはじめ、正月へかかる頃は、見渡すかぎり白ひといろの世界にかわる。二月の初め頃には、道は、屋根から行き来できるほどの高さになり、着ぶくれて丸っこくなった子供たちは、藁沓にぼっち[#「ぼっち」に傍点]をかむって、屋根から屋根へ、ひょいひょいと渡りながら、七曲りの松の木が小っちゃくなった、と燥ぎ立てる。
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