だ。未練も何もあったもんか、身重女にせえ」
「豪そうに、いきり立っているけんど、お前、お高さんさ首ったけじゃねえか。近頃な、ひどく菅原さんさ胡麻こ[#「こ」に傍点]擂ってるって評判だぜ」
指物屋は敗けていなかった。
「さっきな、裏小路の富に会ったら、山帰りに、柳屋先生と仙太さんが一緒に下りてきて話しこ[#「こ」に傍点]はずんでいたとよ。半月も経たねえ内に元の鞘さ納まるして。お前《め》がた、なにも知らねえで、蔭口きくのやめでけれであ」
畳屋が押えた。みんなは少時|白《しら》けた気分で、おし黙った。
床屋の親方が、みんなの気を引き立てるような弾んだ調子で、お高へ話をもっていった。みんなも釣られて、はずみ立った。
「どっちの方にも文句はあるべどもな。事の起りは、これさ」
親方は指で丸をつくってみせた。
みんなの意見はまちまちであった。県下に木材工場をもっているお高の伯父が、その工場を拡張するにあたって、あぶらやから一万円無期限無利子で借りたことがある。その工場がこの不景気で危くなったときいて、あぶらやでは急《せ》きはじめた。すぐ返済してくれ、さもなければ裁判にかけると威かしたという
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