。そんなことから、お高の父親は肚を立てて、お高を連れ戻した――と、これは畳屋の話である。
「いやあ、その県下の工場へは、菅原さんが出したって話だがね。そいつがどうも、保険料を融通したんで、その埋合せをあぶらやに頼んだところが、約束ばかりでね。さっぱり金の面《つら》こ[#「こ」に傍点]をみせてくれねえもんで、菅原さん、肚たてたんだな。肚立てるのも無理がないさ」
 戸籍係りの時二郎が物識り顔で言った。みんなは、どっちにも信をおきかねたが、菅原と同じ役場に勤めているという訳からも、時二郎の言葉の方を重く聴いた。
 お高の父親の菅原孫市は、役場の収入役を勤めるかたわら、保険会社の代理店をも引きうけていた。これ迄も、使い込みがばれて、会社との間にいざこざがあったけれども、その都度、町長が仲に入って、取り纏めてきたという噂も立っていた。
 つまった煙管を真っ赤になって吹き通していた親方は、吻っとひと息いれて、
「可哀相なのはお高さんだなあ。あんな縹緻《きりょう》よしがさ。どうだ、時さん、ひとつ、あたってみないかい」
「駄目だってこと」
「でも、お高さんが好いていたら、どうするえ」
 時二郎は黙った
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