「やっぱりな」
 親方は頷いた。
 硝子戸が音を立てて開き、急に冷たい風が流れこんできた。黒が入って来た。そのあとから仙太がのっそりと入って来た。みんなはしんとして仙太の顔を見た。眼ばかりが大きく、異様に光ってみえた。
「今晩は、皆お揃いで」
 そして、ちらと時二郎を見たが、気にもとめずに鏡の前に坐った。
「親方、髭あたってけれ」
 親方はポンポン、と囲炉裏に火を落して、煙を鼻からふうっと吹いた。
「寒くなったしなあ」
 明らかにうろたえていた。畳屋と他の二人は仕事が残っているからとて出て行った。指物屋は床屋の長男と将棋をさし出した。時二郎は新聞を見ていたが「おばこ節」を鼻唄で唄っていた。
「なんと、黒の大きくなったこと」
 親方は剃刀を研ぎながら黒を見た。そして、湯をとりに奥へ入っていった。
 仙太は据った眼付きで鏡をみていた。辺《あたり》の何物にも気が届かぬふうである。
 ひとわたり剃りが終った時、親方はまた剃刀を研いだ。
「親方、わしとこに、県下から買ってきた西洋剃刀あるけど、日本剃刀とどっちの方が好く切れるべがな」
 鏡の中で、仙太がきいた。
「そ、それあ、西洋剃刀でしょう
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