ばになって、親同志の張り合いじゃあ、仲人になったこの俺も立つ瀬がないというもんだして……」
「わしもそう思うです。お父《ど》にも何度も頼んでみたんですが、今じゃお父よりもお母《が》のほうが意地を張って、けしかけているような始末です。高の悪口ありったけ並べ立てて、ゆうべなんかも、穀《ごく》つぶしが減ってせいせいしたなんて……あんまりだと思うと、ついわしも肚が立って怒鳴りつけてしまうし、この頃は、家にいるとくさくさするので、山さばかり来ていますて」
 仙太は道端の松の木に片手を触れながら歩いた。
「俺も仲人になった手前、この話は何んとか纏りを付けねば、第一世間に顔向けが出来ねえしなあ。お前もここ暫らく辛抱して、楯つかねえ様にしな。おっつけ恰好がついたら、役場さでも出るようにして、家を別に二人っ切りで持つだなあ」
 仙太をやりすごしておいて、先生は、空を仰ぎながら立小便をした。
「何んと、雲の早えこと!」
 仙太は少しさきで待った。爪さきで石ころをはじきとばしながら、何故ともなく、結婚当時の生きいきとしたお高の姿を思い浮べていた。頤を突き出すようにした甘え顔の愛おしさ、羞を含んで俯向いた時の
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