。肩に手をかけ、背伸びをして、青空に浮んだ守山をのぞきあい、野火をつけに行く日を、わくわくしながら勘定した。
仙太は、屋根に上って雪を投げ落していた。
「危ねえぞ」
子供らは蜜柑箱に雪を入れて溝に運んだ。堰き止められた水が、やがて満ちて、どうと雪を圧し流すと、一度に歓声を上げた。
仙太は耳をすました。嬰児の泣き声が下の間から微かに聞えていた。
「泣かせるな!」
と、上から怒鳴った。母親のぶつぶつ言う声がきこえた。赤子が届けられて以来、仙太が極端に無口に、また、ひどく怒りっぽくなったのを母親は知っていた。そして、自分も一半の責任を感じて、出来るだけ逆らわないようにしていた。
よく泣く児であった。殊に夜になると絶え間なしに泣き続けるのであった。
その夜は寒かった。冬の閉じる頃よく襲うてくるあのきびしい凍てつきだった。
仙太は、ふと、赤子の泣き声で眼をさました。そして、母親の溜息を聞いた。
「苦労かける子供《わらし》だなあ。なして、また生まれてきたやら」
仙太は、かっとなって跳び起きて、あっけにとられている母親から赤子をひったくった。急に泣き叫ぶ赤子を抱えて、外にとび出した。
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