みてえに催促されたんじゃあね、此方だって意地になって断りたくなりますよ」
「この調子だもんな。まるで、鬼だ!」
「ふん、此方が鬼なら、菅原さん、あんたは餓鬼でねえか。人の金ばかしあてにしてさ。危ねえ収入役だってことよ」
柳屋先生の斡旋は全部徒労に帰してしまった。感情的にはっきり疎隔した両者は、思い出に更に昂奮しながら冷い風の中を帰って行った。
先生は、十二時近くになって床にやすみながら、奥さん相手に語った。
「どっちもどっちだよ。仙太やお高さんには気の毒だが、とうとう話は別れることになった。生まれた子は、あぶらやで引き取ることに折り合いがついたよ。どうも仕様ない。俺には、もうこれ以上どうも出来ん」
そして、
「仲人なんかは、もう、死んでも懲りごりだ」と、述懐した。
青空の日が続くようになった。
溝々は水嵩をまして氷の破片《かけら》は音をたてながら流れた。シャベルで水っぽい雪を掘ると青い蕗の芽が雪にまじって散った。陽当りの好い塀の下には黒い土が見え出した。橇はもう小屋にしまわれた。子供らは、どろどろに足袋を汚して母に叱られる日が多くなった。どうかすると顔にまで泥をつけて遊んだ
前へ
次へ
全31ページ中22ページ目
小説の先頭へ
文字数選び直し
矢田 津世子 の一覧に戻る
作家の選択に戻る
◆作家・作品検索◆
トップページ
登録
ご利用方法
ログイン
携帯用掲示板レンタル
携帯キャッシング