似をしたわけでもねえです。最初から当人同志が惚れ合った仲だし、むしろ喜んでるですが、それとこれとは違って、あぶらやさんがあれだけ堅く約束した貸金のことは、恥をさらすようなものですが、此方もせっぱ詰った揚句のことで、それすら実行して呉れねえとなると、将来親戚としてつき合っていけるかどうか心細くなるし、いっそのこと、今の内にと、引き取ったわけでしてな」
 仙太の父親は、こう受ける。
「それについては、手前の方からお話しねば分らねえです。先達も、先生さお話申したような訳でして、お高さんを金で買ったでもねえし、また家さ金のなる木を植えてるわけでもねえし、何んとか遣り繰り算段して、その内に、利子だけは負けにして融通しようと思っていたですが、何んせえこの頃の不景気じゃあ店は売れねえし、貸金は利子も入らねえ始末でして……それを無理にこうしろ、しなければお高さんを連れて行くっていうのはあんまりな仕打ちで……」
「そんなに金に困ってる人が、先々月県下の木工会社さ五千円も貸し付けたって話ですが、あぶらやさんは話はうまいが、利子生まねえ金あ持ってねえとみえて……先生、まあ聞いて下さい。人にも話せねえことです
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