町に着いた馬車の喇叭が風の中に震えてきこえた。
「お父さんが帰ってきたかもしれない……」
お高はもう一度悠っくり考えたかった。不調に終った場合を想像すると、どうしても仙太の疾る心を抑えつけたかった。しかし、一途な仙太の激しい気性を知っていたから、もう、どうしようもないと諦めて、つられて歩きはじめた。
二人は揃って墓地を出た。真っ暗だった。
「いいじゃないか、夫婦だもの」
仙太はどうしても離ればなれに歩くのに反対した。そして、突然、つよくお高を抱きしめた。
「あえ、この人ったら! だれか見てるして」
お高は、一息ひと息に途切らして、ようよう、こう囁いた。
道には誰もいなかった。けれど、お高は俯向きに、裾をおさえて、仙太よりも少し遅れて歩いた。
黒は二人の先を行った。
柳屋先生宅での会談は、不調に終った。
先生のはからいから、若い者には先に帰ってもらって、親どうしの話し合いであった。
お高の父親の菅原孫市の言い分はこうである。
「世間では、娘と金を引き換えだなんて言ってる人もあるようですが、わしだって、この町の収入役をしているくらいの人間だし、そんな人身御供みたいな真
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