にしても、こうして別々にいると一日一日がとても苦痛でやりきれない。互の思いが変らないとしても、これでは、変っていると同じではないか。柳屋先生に頼んでも、どうも廻りくどくて待ち切れない。どうだ、いっそのこと、これから自分の家へ行かないか。二人で親に頼みこんでみよう。何んぼなんでも子であり、孫をみようというのに、二人さえしっかり離れないでいれば、そう因業なことも言うまい。――仙太はだんだん熱してきた。――親同志のことは先生にまかせることにしよう。それでもとやかく言うなら二人で逃げてもいいじゃないか。東京へでも行ってしまおう。
 お高は昂奮してくる仙太の息づかいを、じっと窺っていた。
「でも、この体ではねえ」
 お高は溜息をついた。
「それよか、いっそ柳屋先生のとこへ行って、親どうしに来てもらって、話を決めてしまったら」
「そうだ」
 と、仙太は弾み立った。お高は抑えて、
「きょうはお父さんが役場の用で県下へ行って、終列車で帰ることになっているもの、明日《あす》にしたら……」
「いや、今日にしよう。これから行くことにしよう。二人の生き死にの問題じゃないか。直ぐ行こう」
 仙太は立ち上った。

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