郷後の清子の身の振り方については、実家の両親や親戚などがかなり喧ましく干渉するのだったが、清子は姑を守って学校に奉職することに決めていた。孤独な姑を残してどこへ行く気にもなれなかった。
「そうそう、忘れていた、さっき雑誌が出来てきてね」
西尾は上り框の鞄を引き寄せて、印刷油のプンプンする「栄養と家庭」を取り出した。
「鈴木君にもらった原稿が載ってますよ。先々月の二十五日だったから、そうだ、寝つくちょっと前ですね。すると、これが絶筆というわけかな」
パラパラと頁をめくっていたが、ひょいと立つと、床の間の遺骨の前にのせた。
「おっ母さん、この机も貰ってよかったんですね。しめしめ」
西尾は側の机をコツコツと叩いてみたり、抽出しを開けてみたりした。
「ほう、いたずら書きがしてある。……何んだ、幾何の問題か」
「何せ、あれが中学さ入った年、買ってやったもんだから……」
「すると、もう二十六七年もたっていますのね」
清子も覗きに立った。
「気の利いた貉《むじな》コだば化ける頃ですべ」
姑はこんなことを言って、二人を笑わせた。
荷物をくくり、あとは明朝のことにして西尾が帰ってしまうと、程
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