も愛らしい。けれども嫁いでもう十四年、清子もいつのまにか齢を重ねて三十六になったが、この家にはさっぱり福運らしいものが訪れない。
しかし、良人が達者でいた頃のこの一家には毛筋ほどの不平も不満もなかった。ただ一つの清子の希いといえば、ミシンが欲しいということだった。十年来、良人に買ってもらえるのを待っていた。連れ立って外へ出たときなど、清子はきっと良人を促して街通りのミシン店の前に足を停めた。大きな飾窓の中に、黄色い髪をお下げにした桃色の服の西洋人形と一緒に、黒光りのする幾台かの立派なミシンが並んでいた。夫婦は期待と希望に軽い昂奮をおぼえながら、こそこそと値ぶみをし、長いことその前に立って眺めていたものだった。だんだん清子は自分の望みが大それた望みだったと諦めるようになり、隣家の主婦の卓上ミシンをかけさせてもらっては、十分満足して帰って来るのだった。
姑の髪はむずかしかった。びんたぼをチョッペリと出して、てっぺんに出来合いの小さなマゲをのせるのだったが、この和洋折衷のハイカラ髪は清子が嫁いで来てからの慣わしだった。
「お月さん、うまく隠れたかえ」
姑は大事そうに髪へ手をやり、清子の
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