でもするようなうろたえようである。そうした姑が清子には何か悲しかった。常は口の重い姑だけに、良人が亡くなってからこの方の軽口は悲しかった。それは清子に取り縋る感じで、まつわるように話しかける。
 亡夫の初七日のとき郷里から出てきていた親戚の者の口から、ふと清子の再婚の話が出ると、姑もその場では同意したけれど、それからの落ちつきを失くした姿、おろおろした姿は清子の胸に沁みた。良人に逝かれてからというもの清子と姑の気持は一そう寄り添いあって、いわば二人はお互の突っかい棒になっていた。年老いているだけに姑はよけいこの支えなしでは居られない。買い物で清子が少し手間どると、姑は露路口まで出て待っている。清子が外出の仕度をしだすと、うろうろと世話を焼きながら、ふと頼りない眼いろで見戌る。そうした姿に堰きとめられて清子は出難くなる。或夜のこと、厠へ立とうとした清子を突然姑が呼びとめて、
「何処さも行かないでけれせえ」
 と声をしぼって取りすがった。悪い夢におびやかされたと後で分ったけれど、このことがあってから清子は尚のこと姑の側を離れないようにした。
 子に恵まれなかった清子夫婦にとって、姑ばかりが
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