で、この集りは、寿女さんの数寄屋町在住の折りの繍によって結ばれた縁故にたよって、葛岡連之助氏、それに、銀三、俊男、この少年は、寿女さんが師匠の許をひく数日前に弟子入りしたのだから、もう五年余りからになる。それと新顔の彦松という年少の内弟子と、わたくしの、都合六人の集りであった。
読経が終わって、食事を済ませると、やがて、坊さんは帰って行った。座にはだんだん寛ぎが出て、お茶にうつる頃から、どうやら話もはずんできた。
「葛岡さん、この頃は学校のほうにも教えておいでのようですが、ずいぶんとお忙しいでしょうな」と、銀三が訊いた。
「いやあ、貧乏暇無しでして」
と、葛岡氏は鷹揚に笑って、「学校の刺繍科なんてものは、いまのところ、ほんの附け足しで、設備といってもまだまだ貧弱極まるものですし、教えるのに大骨ですよ。遠藤さんの勧めもありましてね、こんど、教授所のようなものの設置を考慮中なんですが、刺繍道に何等か貢献出来るという意味から言っても、ひと奮発しようと思っています」
葛岡氏の話し振りは、ゆったりと余裕をもたせて、いささか訓示的でもある。
黒の紋服に袴をつけて端然と坐っている姿は、如何に
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