女の子だねえ」
 龍子は横を向いて、涙ぐんでいた。
 丼をかたげて、ずるずると音をたてて汁を啜りきってしまうと中尾は、手の甲で口のはたを拭いながら言った。
「二口あるんですがね。百五十円と二百円ですが、どうも、二百円のほうは、三文役者の当《あて》なしなんでねえ」
「それあ、駄目よ」
 と、龍子は撥ねた。
「それから、河合がまた百円都合してくれって言うんですがね。もっとも、前のきまり[#「きまり」に傍点]は持ってきました」
 中尾は、内かくしから状袋をとり出して、利子の勘定をはじめた。金の話し合いになると、この男は、言葉つきまで改たまる。
 二人は、算盤をはじいたりしながら、しばらく、貸金の話しをした。
 日がすぎて、龍子は、弟子たちの前で折りにふれ寿女の遺品のことを話した。自分に遺されたものの貧しさを話した。弟子たちは、あんなに目をかけていた先生のところに、遺品の無いのはお気の毒だと話しあった。そして、いつか贈られた刺繍のスリッパや半襟やクッションなどを、それぞれ龍子の手に返した。

 寿女さんの百ヶ日がきて、わたくしは、加福の師匠宅のささやかな法要の席につらなった。
 師匠のはからい
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