みちに明るかったから、利子のことがなかなか細かく手堅かった。日歩六銭は欠かさず手取りということにして、それ以上は中尾の腕次第、九銭で貸付けた時は一銭五厘、拾銭のときは二銭という風に中尾に歩分けした。中尾が掠りを取ることを念に入れておいて、手数料は手取り利子の七分ということにした。
 中尾は龍子の金を信託された責任を負い、そして、龍子は、その委託金の融通権限をもっていた。
 この歌うたいは、笑窪のよったあどけない顔で、いろいろな指示をした。貸し金は小口を主として、返済は三ヵ月限度とし、貸付範囲はサラリーマンを主としていた。
 或る日も、中尾は訪ねてきて、こんなふうに切り出した。
「千三百円ばかりどうでしょう? 銀行員ですがね」
「担保は?」
「それがね、郷里に地所があるとか言ってるんですがね、どうも、あやしいんでね」
「調べに行くんなら調査旅費を出させなさいな。いつかの川越みたいに、持ち出しの徒労《ただ》帰りじゃあ……」
「いやあ、あれを言われちゃあ」
 と、中尾は大袈裟に頭をかいた。「当人はね、保証人を立てるようにしたいって言ってますが、どんなもんでしょう?」
「保証人なら少し割り高に
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