しは知人の娘から聞かされていた。目前の、愛想のいい面立ち、いかにも優しい魅力にとんだ仕草などを、しみじみと眺めながら、娘たちが騒ぎ立てるのも無理がないと思った。
 喫茶店に寛いだ時、わたくしは、ふと、寿女さんのことを思い出して、話してみた。
「まあ、お知りあいでしたの」
 女史の面には、瞬時、硬い意外の表情が現われたが、すぐと、にこやかに令嬢たちを見まわして、
「このひとたち、みんな、お寿女さんのファンでしたのよ」と言った。
 女史は、寿女さんを引き取った時のことから話しはじめた。うっすらと涙ぐみさえしながら話した。令嬢たちも相槌をうちながら、刺繍の巧い人だったと頻りに故人を賞めあった。
 話しながら女史の眼は、素早い上眼づかいでわたくしを視る。わたくしが俯向いていたり、他に気をとられているような場合である。女史のこの素早い上眼づかいは、話しの効果を窺っているとも、また、わたくしを窃かに観察しているともみえる。女史の愛嬌たっぷりな如何にも魅力に富んだ面にもかかわらず、この偸み見は何か暗い気持ちにさせられる。この素早い眼づかいの裡に、わたくしは、妙に、打算の閃きと同時に、油断のなさとでも
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