の亜鉛庇がはみ出している。その照りかえしが縁の青簾をとおしてきつく来る。師匠は茶を啜り了えると立って、勝手元から水の張ったバケツを下げてきて、湯帷子《ゆかた》の裾をからげて濡れ縁のところから庭へ水を打ちはじめた。
庭というても四坪たらず、紅葉の木に桃葉珊瑚《あおき》が二本、手水鉢の水落ちのきわにも手入れの届いた葉蘭のひとむらがあって、水に打たれ染め上げたばかりの緑の色艶は眼にしみるよう、したたり落ちる雫のはずみをうけて葉が微かに揺れている。師匠は、軒のしのぶ[#「しのぶ」に傍点]を取りはずして其処にしゃがんで、わずか残ったバケツの水で丹念に葉を洗い、葉のへりが黄色く闌《すが》れたようになっている分を眼鏡を寄せて検べ見ながら、指さきで丁寧に撮みとっていられる。
おもて格子の開く気配がして、取り次ぎに出た銀三が、
「三昧堂さんがお誂えを届けに参りました」と、うこん色の大風呂敷にくるんだものを差し出した。
師匠は、しのぶ[#「しのぶ」に傍点]を軒に吊して雑巾で足を拭き了えると裾をおろして入って来られた。
「こんどはお叱り頂かないように材料のほうも充分に吟味致しましてございますが、へえ…
前へ
次へ
全69ページ中20ページ目
小説の先頭へ
文字数選び直し
矢田 津世子 の一覧に戻る
作家の選択に戻る
◆作家・作品検索◆
トップページ
登録
ご利用方法
ログイン
携帯用掲示板レンタル
携帯キャッシング