、ただひたむきにその道へと駆り立てる。鞭は徒弟の曲を矯めるためとも、また、師匠自らの惰を戒めるためともみられる。師匠は、徒弟を多くとることを好まず、子|養《が》いから手がけて人と為す、という建前であった。師匠の許を巣立って、いまは名をなしている人もあるが、旧くからわたくしの眼に馴染んでいる門弟の顔は、ほんの二三にすぎない。このうち、銀三がいまだに師匠の許に残っているだけで、女弟子の寿女《すめ》さんも疾うに出てしまったし、腕達者できこえていた連之助などは、もう一家をなして展覧会へも両三度通り、この程、刺繍組合の理事とやらに推薦されたときいている。先日、近所の書店で、葛岡連之助著「日本刺繍講話」という書物を見かけたが、若年にかかわらず、連之助の業界に於ける名声は目ざましいものだときいている。併し、師匠によると連之助の技は展覧会を目ざすようになってから堕してしまったと言われる。或る眼に拘泥わり或る眼に阿ねる心がしぜん技の上に現われたとの意をそれとなく洩らされたのであろう。曾て、組合というものに拠った例しなく、また、人の眼を通して作を展覧させることにも全く縁の無い師匠には、以前のこの門弟の今は
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