《ゆだ》ねたというものかも知れませんよ。(画家不審らしき顔をなす。姉は沈みたる調子にて言い続く。)実はね。おっ母さんというものには、とうに別れてしまったかも知れないのですよ。そしてわたしはある縁のない人に出くわしたのね。その人が人手を借《か》らなくってはどうする事も出来ない、可哀相《かわいそう》な人だもんだから、わたしはその人に世話をしてやって、その人のためには、わたしがいなくなっては、どうもならないような工合になったのね。晩方《ばんかた》に窓掛を締めてやれば、その人のためには夜になり、午前《ひるまえ》に窓の鎧戸《よろいど》を明けてやれば、その人のためには朝になるでしょう。物を喰《た》べさせるのも、薬を飲ませるのもみんなわたしの手でするのでしょう。わたしの本を読んで聞かせる声に賺《すか》されて、寝る時は寝るでしょう。そういう風にその可哀相な人はわたしに便《たよ》るのだから、わたしはまたその人の助《たすけ》になるのを自分の為事にしているのです。それが今お前に言われて見れば、わたしのおっ母さんなのね。
画家。(姉の方《かた》へ手を差伸べて温かに。)ええ、それがお互のおっ母さんだというわけで
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