すね。
姉。(弟の手を握りて、互に目を見交す。○間。)こんな事をいってぐずぐずしていてはおっ母さんが待遠《まちどお》に思うでしょう。
画家。それではロイトホルド君には逢わないで帰るのですね。
姉。そう。あんまり遅くなるからね。(間。)あの人は度々お前の処へ来ますの。
画家。なにあんな風で、交際|好《ずき》というわけではないでしょう。それだからめったには来ないが、今日は誘いに寄るといっていたのです。
姉。マルリンクの一|家《け》とも附合《つきあ》っていると見えるね。
画家。そうさね。マルリンク男爵の友人というよりは、息子のロルフの友人といった方が好い位でしょう。時代が違って男爵とは話が合いそうもないのですから。
姉。そうでしょうとも。この頃のように人の思想が早く変ることはないのだから。
画家。実にそうです。勿論《もちろん》青年社会の思想というのは。(戸を叩く音す。)はてな。ロイトホルド君かも知れない。お這入んなさい。ああ。そうだった。
医学士ロイトホルド。(登場。痩《や》せて背の高き男。)もうそろそろ出掛けても好いでしょう。(ゾフィイを見て、暫くは近眼《きんがん》のために、誰とも見分かず
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