、満州人は稀に餃子《ジャウズ》の皮に蕎麦粉を用いている位で、一向に蕎麦を利用している様子が見えませぬ。それで、
「蕎麦を味わうには」どうしても内地式の手打ち蕎麦が第一等であろうが、これを作るにはなかなか技術が要り、労力もかかり、あるいは小麦粉などのつなぎを入れるために蕎麦の風味を失い勝ちとなりますので、蕎麦を常食として簡単に、しかも最も「蕎麦」の風味を生かして摂取することにつきては、渡満前から内々苦心をしていたのでありますが、僅かに機械蕎麦位で我慢をして来たのであります。
それで機械だけでも安くて四、五十円はとられるので、「つなぎ」を余程入れぬと切れ易く、甚だ難しかったのでありました。ところがある時、干先生が支那の場末の恐ろしく汚い飲食屋で「つなぎ」も不要、しかも切れずに風味も充分あるという「蕎麦」を見つけたといわれるので、早速出掛けて箸や茶碗を消毒させて食べてみたところ、とてもおいしいという訳にゆかぬが、とにかく今までの心配を全部ふきとばしてくれるほどの喜びでありました。道具の値段は幾らだと聞きますと、約廿円だとのことで、これならば買わずとも農民の手でできるというので渡辺兄にお願い
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