ます。初めは「並のもり」といういわゆる駄蕎麦ばかりを食ったものですが、しかしこれを段々やっているうちにあの白い細い更科の方がよくなり、駄蕎麦の方も旨いには旨いが、味が重いし、舌へ残る気持も少しべっとりとする。更科は少しあっさりと過ぎる位に淡々たるところがいいようであります。
 牛込神楽坂の「春月」もよろし。「もり」「ざる蕎麦」何でもよいが、あのうちの下地に特徴があります。この方の通人にいわせると、蕎麦は下地をちょっぴりとつけてするすると吸い込むものだというけれど、私はやはり下地を適当につけて口八分目に入れていくのがよいと思っています。
 信州から蕎麦粉を取り寄せて打ってもらって食べることもあるけれども、どうも旨くない。蕎麦屋に頼むものでありますから、東京式に打つので、自然饂飩粉などを多く入れるのでこんなことになるのではないかと思って悲観しております。(『食道楽』誌より)

 満州蕎麦の味(酒井章平氏の話)
 前略 一、二月に入ってから、私共が一番に嗜好する所のものは「手おし蕎麦」でありました。一体満州の蕎麦の産額はなかなか大きく、日本内地にも十万石ほど輸出をしているとのことでありますが
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