るがかなり面白い事じゃ程に御きかせ致さいでは叶わぬのじゃ。
 何でも南の国での事じゃったと申して居りまいたがの、
 天井には黄金をはりつめて床には香り高い木を張った家に住む事の出来るほど富んだ人が居りまいたそうでの。
 その国の景の良い処と云う処へは必ずその住居をつとめてでも建て居りまいたそうでの、
 国々の宝をつめた倉は数えきれぬほど立って、月が満ちれば銀色に輝き月が消えれば黒くなると云う石も、人々の神から授けられた運勢を見る鏡もその中にあったと申す事じゃ。
 したが分にかって富む人の情ない持前で貧しいものにようめぐみもせいで只宝の数の増して行くのばかりをたのしんで居りまいた。
 或日一人の美くしい乙女が一つの小石を持って参って春は紫に夏はみどりに秋は黄金色に冬が参れば銀色に輝くと申しのこいてその石を置いて去《い》んでしもうた。
 その時は春での、小石はつゆのしたたりそうな葡萄と同じ色になって居りまいた。
 その人は夏の来るのをいとう待遠がって夜は早く床に入り明けてからも中々床をでいで居ったそうでの。
 その日はもう夏の来るのに間のない時であったそうで気ままなその人は夏の来るのがあま
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