上に種々の智恵をましたのを喜ぶ。カノサの十二月は、雪のつめたさに肌をさされながら働かねばならぬ貧しい民の苦労を始めて教え不公平な政をせぬ様に致して呉れ、又他人に「あやまる」と申す事の味も知ったのじゃ。
雪の中に立ちつくいた三日三小夜の時はわしに思いもかけぬ智恵をおくった。
わしは御事に、頭《つむり》を下げながらも願った「最後の勝利」を得た事を喜ぶ。新らしい考え深い試みに会うた事も喜ぶのじゃ。
「己を信ずる」と云うたしかな頼もしい信仰に、わしは、思い通りの仕事を産んだ。
お事のお云いやった神の奇蹟《きせき》の現わるるのを信じ得ぬわしは待ちこがれて居るのじゃ。
王のお言葉はこれだけでございます。
そしてこれをさしあげる様にとの事でございます。
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朽ちた様な鉄の十字架を置く。人民はよどみなくのべる使者の様子に気を奪われた様にさっきの罵などは忘れて見て居る。
やや長き沈黙の後。
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法王 わしは今、神のお召をあずかろうとして居る。この荒屋に逝く身とはなったけれど、わしは幸福を身にあまるばかり感じて居る。
心ばかり富んだ人々が、わしを只の「不幸の人」として見て呉れ、わしに臥床をかすのを嫌わいで呉れると云う事は何よりも快い事じゃ。
末長うござる方に、栄《さかえ》を残す事は又よろこばしい。
これですべての事の方はついて仕舞う、とは云えこの徳も力もないわしが、やがての時、見事にすこやかに生い立つべき種を消ゆる事なく眼《まなこ》にはよう見えぬ土に蒔いたと申す事はわしを安らかに、御国へ行かせる――
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息がきれた様に言葉の末をただほそく残す。
人々は一種の恐怖と何か期待して居る様な気持で時々、手で話し合ったり合点したり祈ったりして居る。
又云いつづける。
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法王 わしを安らかに御神のそばに行かせて呉れる事なのじゃ。
末長う、栄ゆる様にと、まだ若うておいでるお方を祝福致す。
身にふさわしい贈物《おくりもの》も、おうけ致す。
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わしの御返事なのじゃ――
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使者 たしかにお伝え申します。
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一人で去る。
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老僧 思わぬ事でお疲れがましました。
人々は帰ってもらう様に致しましょう。
法王 何のそれには及ばぬ。さあ。
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また祈りが始まる。
父親に手を引かれて小さい男の子が出る。
父親がひざまずけと云ってもしない。
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子供 阿父ちゃん、いや。
父 そんな事云うもんじゃあないよ、ね。
さあ、いつもお寺でする様におし。
子供 お寺じゃあないもん。
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父の手からぬけて遠慮なく法王のすぐそばに立つ。
止め様とする父親を法王は止める。
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子供(無邪気に云う)ね、法王様って偉いの? 大変うちの父ちゃんはあんまり偉くてこわいんだって。
法王 お前の方が好い児だからじゃ。
子供 だって阿母ちゃんは私を悪い児って叱っても、父ちゃんを叱った事ちょっとだってありゃしない。
そいからねえ、
坊に、木馬買って呉れない?
一度も、坊の処へ、クリスマスのおじいちゃんが来ないんだもの。
法王 よしよし可愛い児じゃ。
若しそう出来たら、買ってやろうね。
子供 ええ、きっとね。
さようなら、またあしたね。
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他の人より長い祝福をうけて去る。
法王は十五許りの青白い体のほそい娘の頭に手を置く。
外で不信心な遊び者がほうけた声で唄って行くのが聞えて来る。
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でこうて半間の猟人は
或る日ひょんなこってララ
狐《きつね》つかまえた――
皮はごか――やれ煮て食おか
廻りかねたる智恵助に
憂き目を見せてござるうち
こすい狐はうまうまと
ばかしおおせて猟人を
あちら、こちらと、引き廻す
西へ五里、東へ三里とあゆむうち
でっかい沼についた時
長い旅故疲れたろ
水なと浴びて行きなされ
狐は笑うて云うたげな
雪はコンコン、霰サラサラ
冬の最中《さなか》であった故
衣裳を抜《ぬ》ぐとそのまんま
いてて仕舞《しもう》たとやれそれ
なんまいだあ トララヨウ――
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祝福を願って集った人の群はますます数をます。
広場には人のどよめきと共に話す人声が随分とやかましい。
うす闇のたちこ
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