めた空の中に影の様な人が後から後からと押しよせて来る。
押されて低く罵るものの声もする。
恐ろしい死をもたらす様な人の影の形にとりかこまれて法王は段々短かい生命になって来る。
軽くおそって来る苦痛に法王は娘の頭を押えつける様にする。
[#ここで字下げ終わり]
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娘 (上目で法王を見あげながら)あ! あ! あ!(小さく叫んで震える)
第二の若僧 お師様が――
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法王のそばに飛びよる。
老僧は静かにその後に立って、消えかかる灯の様な法王の命を見守る。
[#ここで字下げ終わり]
[#ここから改行天付き、折り返して1字下げ]
法王 神の――又――
[#ここから4字下げ]
法王は絶え入る。
うす暗がりの部屋の裡で恐ろしく集った人の群は魔の影の様に音もなくひしひしと中央にせまって来る。
どっかで淋しいすすり泣きの声が響き、十字架を置いて出た第一の若僧は手に普通の人の着る着物を持って戸口に引きしまった青い顔をして立つ。
人の群はなおなお影の様に、中央に向って迫って行く――
[#ここで字下げ終わり]
[#地から1字上げ]幕。
底本:「宮本百合子全集 第二十八巻」新日本出版社
1981(昭和56)年11月25日初版発行
1986(昭和61)年3月20日第6刷発行
入力:柴田卓治
校正:土屋隆
2009年10月14日作成
青空文庫作成ファイル:
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