るがかなり面白い事じゃ程に御きかせ致さいでは叶わぬのじゃ。
何でも南の国での事じゃったと申して居りまいたがの、
天井には黄金をはりつめて床には香り高い木を張った家に住む事の出来るほど富んだ人が居りまいたそうでの。
その国の景の良い処と云う処へは必ずその住居をつとめてでも建て居りまいたそうでの、
国々の宝をつめた倉は数えきれぬほど立って、月が満ちれば銀色に輝き月が消えれば黒くなると云う石も、人々の神から授けられた運勢を見る鏡もその中にあったと申す事じゃ。
したが分にかって富む人の情ない持前で貧しいものにようめぐみもせいで只宝の数の増して行くのばかりをたのしんで居りまいた。
或日一人の美くしい乙女が一つの小石を持って参って春は紫に夏はみどりに秋は黄金色に冬が参れば銀色に輝くと申しのこいてその石を置いて去《い》んでしもうた。
その時は春での、小石はつゆのしたたりそうな葡萄と同じ色になって居りまいた。
その人は夏の来るのをいとう待遠がって夜は早く床に入り明けてからも中々床をでいで居ったそうでの。
その日はもう夏の来るのに間のない時であったそうで気ままなその人は夏の来るのがあまりおそいと申してのう、腹立ちまぎれに薬師に申しつけて三日三小夜眠りつづける薬をつくらせてそれをのむなりまるで息をせいで深く眠りこんでしまいましたのじゃ。
三日三小夜は夢中にすごいて南のはてに居るけものの様な伸を致いてフト傍の玉を見ると気のつかなんだ間にまっさおに神がお造りなされてから万年も立った池の水の色の様になって居ったので、その人はもう気の狂うほど嬉しがってそれから後と申すものは鉄の箱を造った中に銀の箱を造った中に金の小箱を作ってその中に小石をかくいて一番大切な倉の一番深くに入れて置いたそうでの。そのうちにも年は立ち行いてその事がござってから十年も立った時に、その人は夜な夜な怪しい夢にうなされる様になったと申す事じゃ。
何しろ金をくさるほど持った人じゃほどに罪滅しじゃと申して寺を建て僧侶を迎え致いたが一向に甲斐も見えいでうなされ始めてから三月立って死んで仕舞うたと申す事での。
学問のある人も徳の高い僧侶もそれが乙女の持ってまいった四季毎に色の変る石を倉の奥等へしまい込んで置いたのが、祟ってじゃと気づくものがなかったのでその人は死なねばならぬ様になったのじゃと申す事での。
王 面白い話じゃ。
したがのう、わしは三日前に使者の身なりと料紙だけはまことに見事な手紙をうけとったのじゃ。
法 中実《なかみ》は?
王 まことにはや年寄った女子《おなご》の背むしなのより見にくいものでの。
小姓に申しつけて直ぐ裂いてしまって燃してしもうたほどじゃ。
その見にくい手紙を書き記《しる》いたものも人|並《なみ》に眼が二つで耳まで口がさけて居らなんだが不思議じゃ。
法 その願うた事を貴方はお許しなされるか、
それとも打首かさらしものかにでもなされるかの、その憎い奴めを……
王 悪いと申すさえまだ言葉が上品なほどじゃ、
ならぬと申すさえまだにぶいのじゃ。
法 いかい事、気におとめなされてじゃ。
幾日ほどお考えなされたの、
にくい奴をどう処分しようとな。
王 一《い》っ時じゃ、ただの――
一つ事を一日以上考えて居るのは大脳を神からよう授からなんだものの致す事での。
世間でわしは賢明じゃと申す通りの頭を持って居るのじゃ。
法 さてさて、
鏡のかげんであばたもえくぼ
己惚《うぬぼれ》の生んだ児の頭は小うござってのう。
王 御事は母御がうみそこのうて口から先に娑婆の悪い風にふれたと見ゆるわ。
法 そのためで経典を誦する事がいこう巧者になりまいてのう――まんざらそんばかりもまいらなんだがまだしもの事――
ま! とどのつまり船は畑ではよう漕げぬと申す事さえ世の中の人すべてが存ずればよいのでの。
王 じゃと申して水と陸《くが》に生きる事のよう出来るものは神のお造り召された生きものの中にあるのじゃ。
法 二股かけたもの共の大方は、蛙の叔母だとやら「あひる」のやれ「いとこ」だとやら申すのが可笑しい事でのう。
王 よんべ、酒と感違い致いて油をお飲みやったと見ゆるわ。
法 おお、それはさて置き貴方は二時間ほか御やすみなさらなんだと見ゆる――
子兎の様なお目をなされてじゃ。
王 腹の立つ夢を夜も昼も見つづけて居るからじゃ。
法 お祈の甲斐ないせいでござるわのう。代って祈って進ぜようか。
王 わしの形をいたいた蝋人形を作られたり、よう気のつかなんだ間に髪を一つまみぬかれたりいたすよりはまだましじゃ。
法 思いもかけず、しとやかな御心をお持ちなされてじゃ。
王 おお! 片意志[#「志」に「(ママ)」の注記]で見にくい怒り奴がそ
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