った。
末娘のきよ子が、年が改まると二十《はたち》になる。不束者《ふつつかもの》だが、おひとを見込んでの相談がある。どうか聟になってやってはくれまいか。そういうのであった。
ひたむきのお豊の心持は、一言一句のうちに溢れ、詮吉は益々返答に窮した。
窓に向けて置いてある机に肱をかけていた、それをいつかきっちり腕を組んで坐り、詮吉は、余り突然でどう返事していいか分らない、ありのままを云った。
「――あんまり、あせりなさらない方がきよ子さんのためでしょう」
それは詮吉の実感であった。詮吉はお豊母娘の勤労者らしい地味な親切をよろこび、いい下宿を見つけたとは思っていたが、きよ子に対しては、自身の困難な毎日の活動条件から、全然問題にしていなかった。
お豊の方はそうとは知らず、ひたすら自分の目がねの違わなかったのをよろこぶ風で、
「あなたがそうおっしゃることは、わかっておりましたよ。ですからね、猶更私の身にして見れば、ああこんなお方をと思うんですよ」
そして、両眼に涙をうかべながら、
「あなたのような息子が一人あってくれたらねえ」
信じきった眼つきで詮吉を見て笑った。
昔から小糠三合も
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