ストライキ、拡大して行く労働者運動の波を、自己の指導下におこうとして、歴史的大芝居を打とうとした。大衆の政治的不満を皇帝への請願運動に解消させようとして「十字架行列」を組織した。
 一月九日、ガポンに率いられた数万の労働者は教会旗や、聖像や、ツァーの肖像を建て、ツァーの讚歌を歌い、女子供までその後について冬宮の広場へ懇願に進んだ。ところが、この赤旗も革命歌もない行列に向って、ツァー[#「ツァー」に×傍点]が与えたものは何であったか。ネルリ門の附近で、突如、騎兵の襲撃と一斉射撃が起った。ガポンは逃げた。婦人、子供、老人にまで射撃[#「射撃」に×傍点]が続けられた。あきらかに仕組まれた芝居の指揮者、ツァー[#「ツァー」に×傍点]は、勤労大衆の請願に銃撃[#「銃撃」に×傍点]の挨拶をもって威嚇し抑圧したのである。だが、労働者のすべてが逃げまどうたのではなかった。
「労働者たちは胸間のシャツを引き裂いて、同志よ、俺達は死のう、だが一歩も退くな、と叫んだ。」武装せぬ行列は、社会民主主義者の指導の下に、バリケードを急造し、木石や間に合せの武器で抵抗した。千人余の負傷者、二百人の死者の犠牲者が数えら
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