もう少し立つと、きっとあの人指をしゃぶり出すに違いないわ。まるで赤ちゃんみたいにしゃぶるんだもの、可笑しいわ、私もう一遍行って見て来ようかしら」
などと云いながら、まるで何か嬉しいことに出会ったように、ハアハア、ハアハア云って笑った。
「何故叱られたの」
「何故なんだか私知りゃあしないわ、だけどさっき高山さんが云ってたわ」
「なんて」
「いや、私。貴女が怒るから」
「怒りゃあしないわ」
「きっと」
「ええきっと」
「ぢゃあないしょよ、
あのね、高山さんや山田さんがね、あれなんですって。今朝貴女面積のこと先生に訊いたでしょう。それをね先生は随分怒ってるんだって、だけど貴女はうっかり叱れないから、何を云っても黙ってる飛田さんに当ってるんだろうって。
だから何でもありゃあしないんだわ、ただの八つ当りなのよ。だけど真個に黙っててね。そいじゃあないと私怒られちゃうから」
云うだけ云って、笑うだけ笑うと、三崎さんはさっさと彼方へ馳けて行ってしまった。
けれども彼女は笑うどころではなかった。大変なことを聞いたと思った。
真個にそんなことがあるだろうか。
先生の八つあたり……。非常に不合理
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