た、確信していた。
で、彼女はもう一度、前よりもっと丁寧に訊ねた。
「面積には厚みが無いと申しますけれども、誰かが地面を買うとき、幾坪と云って面積で買っても、若し井戸や何か掘るのに、地面の底まで穴をあけても、その泥を勝手に使っても、売った人は何とも云わないと思います。
そうすれば、その人の買った面積には、厚みがついているのでは無いでございましょうか」
暫く口を噤《つぐ》んでいた先生は、やがて明かに感情を害した語調で、
「縦と横とをかけると面積が出るのです。そして、面積に厚みは無いものと、昔から定まっています」
と断言すると直ぐ、まだ立ったままの彼女に、凍《し》み透るような一瞥を投げたまま、黒板の応用問題に就ての説明を始めた。
この時始めて、彼女は自分のこれほど一生懸命な質問が、下等な意地悪からの揚足取りとして受けられていたことを知ったとともに、先生が自分に対して与うべき解決を持っていないことを知ったのである。
自分の疑問は勿論満されなかった。
けれども、そんな下らない事を楽しみにしたり、喜んだりするほど、こじっちゃ、卑しい人間にも見られるのかと思ったら、口惜しいような悲しい
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