から、と思っているうちに、総選挙が迫って来た。
選挙運動がはじまって、乱立した各党が一票を我党へ、の活動を開始しはじめるや否や、この憲法草案が、どれほど日本の民主化のために害悪を及ぼすものであるかが誰の目にも明らかになって来ている。
今日、共産党以外の政党は、悉く、天皇制護持という点を売りものとして、民心にこびようとしている。ラジオ放送、演説でくりかえすばかりでなく、茨城県の或るところでは、元校長の某氏が立候補して、立会演説があった。国民学校である会場へゆくと、各教室からワラワラと馳け出して来た児童らが、両手をメガフォンにして「ゴジ!」「ゴージイ!」と叫んだ実例がある。
ところが、この「ゴジ」が如何に真心なき政略であるかという実例も、公然とあらわにされて来ている。やはり立会演説の公開の席上で、社会主義即時断行と天皇制護持と、決して両立し得ない二つのことを並べて綱領としている一政党の立候補者、執行委員の某氏は、聴衆の面前で、個人としての見解は必ずしも自分の属す政党の意見とは一致していないが、党代表として語る党の立場は、云々と護持論を発表し、大衆に今更その政党のヌエ[#「ヌエ」に傍点
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