によって掌握されなければならないものだろう。
 この草案の発表された三月七日の新聞紙上には、いっせいに「マ元帥、全面的に承認」という記事が、あわせてのせられていた。「交戦権抛棄の特点指摘」という小見出しもついていたから、世界平和の確立のために、ともかくその点だけでも評価されたのであろうと思った。訓練ある民主精神が、この奇妙な改正草案の矛盾の甚しさを見出さない筈はないのであるから。
 共産党以外の各政党が、これ迄発表した草案は、主権在民という外見をとりつくろうことさえ出来かねる保守的なものなのであった。
 細かく目をとめてゆくと「国民は総て勤労の権利を有すること」とあっても、生活安定のための勤労報酬のこと、休養の権利、失業の保険、養老の保険、現在のような生産手段の独専所有にたいする制限のないことも手落ちであるし、男女平等という、婦人の心につよく訴える規定のなかに、社会的平等の地盤となる同一労働に対する同一賃金の必要や、まだ日本に決められていない婦人の公民権のことなどが明確にあらわされていないのも、不十分であると思われた。
 あれこれの点があるにしても、これは草案であって、決定ではないのだ
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