は皆、人を殺しながら、神を呼ばずには居られないのだ。神を――偉大な調和と、解放とを求めながら、縊り合わずには居られないのだ。
 そうは思いませんか。
 総ての人々は、私共も、彼等も、皆、冷静に、賢い心持の時沈思して見れば、国家と云うものは、私共の一つの生活形式である事、国名と云うものが、単に一種の符牒である事を知って居るのだ。
 或る地上の部分部分に生れ、生活し、死んで行く、我も彼も「人」であると云う事を思わずには居られない。
 自らの心を掻き毟る苦悶は、彼等の心にも在る。私共が振り捨てようとする過去の重荷は彼等の背中にも、重くどっしりと負わされて居るのではあるまいか。
 お互は互に、我々の生活が如何那に不純であるかを知って居る。よく知って居る。
 そして、其の醜い、其の固陋な障壁を破ろうとして、何時から血の汗を掻きながら戈を振って来ただろう。
 昨日も、今日も、明日も、明後日《あさって》も。彼等は戈を振うだろう。けれども、よく瞳を定めて凝と御覧なさい。戈を振いながら、彼等の右手は、恐ろしい執念を以て、壊れ落ちる障壁の破片を、しっかりと、命に掛けて掴んで居る。
 掴むと知らずに掴んで居
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