地上に於て最初の呼吸をした其一点――地理的に、歴史的に或る伝統を持った、地上の其の一点が、総て生れ出た者にとって、忘れ得ぬ「祖国」と成るのである。
私が今斯うやって、双眼に涙を泛べながら、思いに沈んで居る時、遠い海を越え、野山を踰《こ》えた彼方の彼方の何処かにも、矢張り、私と同じ恐れと愛に慄えながら、彼等の「祖国」を思う人は無いだろうか。
我が友よ。我が愛する友よ。厳粛に心を鎮めて思う時、我――人間ほど「いとしい」ものが在るだろうか、又人間ほど「いとわしい」ものが又と在るだろうか。
私は、丁度、濡れそぼたれた獣同志が、互に身を寄せて暖め合うような、生身《なまみ》の愛と憎と惨めさを感じずには居られないのである。
考えて御覧なさい。
私共は、何時から人間の生活の、大らかな純一性を求めて来ただろう、そして又、此から先、何時までその燃えるような探求と努力とを続けて行かなければならないだろう。
太古の猶太《ユダヤ》人は、何の為に、如何《ど》う云う心の苦しみから、彼程熱く神を叫んだのか。
ギリシア人は。ローマ人は。そして、今漸々戦慄すべき大殺戮の武具を納めた数多の国々は――。
私共
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