る。一つ落ちれば一つと、二つ落ちれば二つと、終には、振う戈の手も止めなければならない程数多くの、破片を抱え込んで仕舞うのである。
十人は十人、人間の真個な幸福を希望して居る。
万人は万人円らかな愛と、浄化された本然とを求めて居る。
けれども、其なら絶間ない努力と、絶間ない祈りとの熾な焔に、無残にも其を打消す汚れを浴せ掛けるのは誰だろう? 其も亦同じ祈る彼等、努力する私共である。
何故、私共は、あらゆる過去を一撃の下に截り離して、空気と倶に翔ぶ事は出来ないのか、大らかに、自由に、はるばると……我友よ、何故私共は翔ぶ事が出来ないのか。
永遠な、過去と未来とを縦に貫く一線は、又、無辺在な左右を縫う他の一線と、此の小さい無力な私の上に確然と交叉して居るのを感じずには居られないのである。
斯うやって考えて来ると、私は、今日の生活が、如何に「智」に不足して居るかを思わずには居られない。自分には云わずもがな、総ての人に、「智慧」が豊かに与えられて居ない。
智識ではない。智慧である。運命を知り、魂を浄め、時間と空間の規制を超える生命の智慧である。
人間の心を、心の起す種々雑多な現象を、
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