床がある。石とコンクリートの下には、アメリカの土がある。けれども、けれども、私には、小さい島国の、黒い柔かい、水気豊かな春の土が、足の素肌に感じられる。抜けようとしても、抜けられない泥濘の苦しさと混乱を、此の両足に感じる。何処へ行っても、祖国が足の下にあるだろう、地球の果にまで走ろうとしても、祖国の地面は、尚も、尚も、私の足跡を印させるだろう、私は此を歓ぶ。けれども、怖ろしい。涙が出るほど恐ろしい。おお! 我が祖国よ!
祖国を縦に丈斯うやって考えて来る時、私は完く何とも云えない心持になる。何故なら、我友よ。此の心持は、人類が、存在の始めから思わずに居られなかった理想に、大きな悲劇を与え与えして来た Racial Feeling の根底が如何に深く、又如何に逃れ難いものであるかと云う事を、私自身の裡に明かに証明された事になるからなのである。
戦争と云うものが事実今日に於て在るのだから、無く仕ようとするのは夢想に過ぎないと云って、平和論者を嘲笑う人は、私の此等の言葉を聞いて、其見ろ、お前だって矢張り、自分が如何那《どんな》に日本人だか今始めて解っただろう、どうだ! と云うかも知れない。
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