と骨とを貫いて絶えず満ちて居る髄溶液を自覚して居るものが何処に在るだろうか。自然は生育の過程の何時の間にか、堅い折れ易い骨の裡に、流動する液体を与えた。
誰が与えられた時を知り、その動揺を知覚し得よう。けれども在る事は事実である。無くては居られない。持たずには居られない。その、神秘的な液体と倶に、人を産んだ「祖国の気分」も生きて居るのではないだろうか、私は、今更に背後の重さを感じずには居られない。我が父母。我が祖父母……誰々……誰々……。私は、私共一家族の短かいとは云え、昨日今日では無い遺伝を背負って居る。
今日、私自身が自らの裡に自覚する強みも、弱みも、何処か遠い、見えない彼方に下された胚種の、一つの発芽であると、何うして云えないだろう。
此の一家族を貫く何等かの遺伝の上に、私は此も亦必然的な「日本」と云う祖国の気分を負って居る。
「今」と云う瞬時。その「今」は、恒久な意識の流れを截断した瞬間的断面だと云えるならば、「私」も亦、伝説が、日本の神人を語るより以前からの「日本人」の一断面ではないだろうか。私は今、紐育《ニューヨーク》の町中に居る。私の足の下には靴の皮がある。キルクの
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