らそれにうつろう」
[#ここから1字下げ]
と云っても私は怒りはしないかもしれない。
それが長い間専門にそのことにたずさわって居る人の口からこの言葉をきいた時の私の心はほんとうにみじめな情ない悲しさにみたされた。
「芸術」とカッコをして置いて奉ってばかり居たらそれについての研究も改革も出来るものではない。
大なる悟の前にはキット迷と疑いがあると同じに、芸術と云うものを或る一種の尊いものにするのには一度は各々が一つずつ芸術を抱えてそれを疑いの目を持ってでも迷ってでも研究して悪くはないと思う。
けれ共研究した最後は一つの尊い人間の特別な清い感情によってのみ感かすことの出来る輝かしいものとして現われなければなるまいと思う。
死ぬまで芸術の研究者であっても好い。
けれども芸術に対してオッチョコチョイであってはならない。
自分の心臓からとばしり出る血を絵の具にして尊い芸術を――不朽の芸術を完成して最後の一筆を加え終ると同時死んだ画家の気持をどの芸術家にでも持ってもらいたいと思う。
その画家が若かったか老いて居たかは私は知らないけれ共だれでもが生と死との境の分らないまでにどんづまりに
前へ
次へ
全6ページ中4ページ目
小説の先頭へ
文字数選び直し
宮本 百合子 の一覧に戻る
作家の選択に戻る
◆作家・作品検索◆
トップページ
登録
ご利用方法
ログイン
携帯用掲示板レンタル
携帯キャッシング